24年間、探偵という仕事をしてきました。
数え切れないほどの張り込みをし、何万時間という尾行を繰り返し、数え切れない依頼者と向き合ってきました。
現場では、誰にも話せない出来事が毎日のように起きます。
浮気を疑って依頼したが、何もなくて安心したと笑顔に戻る人。
結果、浮気を目の当たりにした依頼者の涙。
証拠を見た瞬間に崩れ落ちる人。
調査が終わったあと、「お願いして良かったです」と深く頭を下げて帰る人。
反対に、証拠が出てもなお現実を受け止められず、何時間も報告書を見つめ続ける人もいました。
案件ごとに、依頼者の人間模様はさまざまな様相を見せます。
探偵は、そのすべてを見届け、そっと寄り添うのです。
しかし、当然ながらその話を表に出すことはありません。私たち探偵には守秘義務があるからです。
依頼者の人生は、私たちの商品ではないのです。
だから24年間、現場のことをほとんど語ることはありませんでした。
ですが最近、少し考え方が変わりました。
検索しても、出てこないもの
インターネットには「浮気調査とは」「尾行とは」「探偵の選び方」といった記事があふれています。
中にはAIが書いたような記事もチラホラ見かけます。内容は間違っていません。
けれど、現場の匂いまでは伝わってこないのです。
真冬の長時間の張り込みで、足先の感覚がなくなる寒さ。本当に寒いとはこの事なんだと、身をもって思い知らされます。
夏の車内で、エンジンを切ったまま何時間も待つ暑さ。後部座席に板氷を買い込んで籠るときは、気合を入れないと意識が飛びそうになります。
対象者が突然バックミラーを何度も確認し始めた瞬間に走る緊張感。
「今日は絶対に動く。」
経験だけが教えてくれる、言葉では説明しにくい感覚。
そういうものは、検索しても出てきません。
探偵という、不思議な仕事
探偵という仕事は、不思議な仕事です。
依頼者とは初対面なのに、その人の人生で最も苦しい時間に立ち会うことがあります。
家族にも話せない。
友人にも相談できない。
そんな悩みを抱えた方が、勇気を振り絞って私たちの事務所を訪れます。
調査の目的は、証拠を撮ることです。
でも、24年間この仕事を続けてきて思うのは、それだけではありません。
依頼者が「前に進むためのきっかけ」を作ることも、探偵の役目なのだと感じています。
離婚を選ぶ方もいます。
やり直す方もいます。
どちらが正解ということではありません。
事実を知り、自分で未来を選ぶこと。
そのためのお手伝いをする仕事だと思っています。
この連載で書いていくこと
この「現場ノート」では、実際の経験をもとに、個人が特定されないよう人物像や地域、時系列などを変更したうえで、24年間の現場で感じたことを書いていきます。
派手な武勇伝を書くつもりはありません。
ドラマのような話ばかりでもありません。
むしろ、コンビニの駐車場で何時間も待った話や、尾行中に一瞬の判断で結果が変わった話、依頼者には見えない調査員同士の連携など、現場だからこそ語れる「普通だけれど本物」の話を書いていきたいと思っています。
探偵という仕事を、少しでも身近に感じてもらえたら嬉しいです。
編集後記
24年間で、一番よく聞かれた質問があります。
「探偵って、毎日ドラマみたいなんですか?」
答えは、違います。
本当の調査は、とても地味です。
だからこそ、一瞬の出来事が決定的な証拠になります。
その「一瞬」のために、私たちは何時間も、何日も準備を続けます。
次回は、「ホテルよりコンビニが難しい理由」について、24年間の現場経験をもとにお話しします。→ #002を読む

執筆者
梅澤 賢樹(うめざわ まさき)
総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴24年・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号
24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。
