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2026.07.03 コラム

現場ノート#004|「尾行は走る仕事じゃない。」──新人が最初に勘違いすること

梅澤 賢樹|総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴24年

現場ノート#004|夜の街で対象者を見送る探偵と尾行の基本を記したノート

探偵という仕事をしていると、こんなことをよく言われます。

「尾行って、映画みたいに走って追いかけるんですよね。」

「電柱とか物陰に隠れながら尾行するんですか?」

実際、テレビドラマや映画ではそんな場面をよく見かけます。

電柱に隠れたり、角を曲がるたびに走ったり、ぎりぎりで見失わずについていく。

見ている分にはスリリングで、確かに面白いです。

でも、24年間現場に立ってきた私からすると、現実はまったく逆です。

尾行で一番大切なのは、追いかけることではありません。

「追いかけないこと」です。

「近くにいれば安心」は、一番危険

新人調査員が最初にやってしまう失敗があります。

対象者から離れるのが怖い。見失いたくない。

だから、つい近づいてしまう。

これは探偵を目指す誰もが通る道です。

でも、近づけば近づくほど、相手の記憶には残ります。

信号待ちで後ろにいる。

エレベーターで一緒になる。

同じレジに並ぶ。

同じタイミングで店を出る。

一つひとつは偶然でも、それが何度も続けば「さっきもいた人だ」と感じられてしまいます。

尾行が難しいのは、対象者に見られることではありません。

「覚えられること」です。

見えなくても焦らない。タイミングをずらす。

これが、キャリアを積んだプロの探偵です。

現場では、対象者が一瞬見えなくなることがあります。

大型スーパーに入った。

地下駐車場へ入った。

駅の改札を通った。

新人はここで焦ります。

「見失いました!」

でも、ベテランほど慌てません。

なぜなら、その人がどこへ向かう可能性が高いかを常に考えて予測しているからです。

スーパーなら出口はいくつあるか。

駅ならどのホームへ向かうのか。

車ならどちらの出口から出るのか。

尾行は「今」だけを見る仕事ではありません。

次の一手を読む仕事です。

走ると、周りも見る

一度だけ、こんなことがありました。

対象者が急に走り出しました。

新人も反射的に走ろうとしました。

私は腕をつかんで止めました。

「走るな。」

対象者はなぜ走ったのか。

電車に乗り遅れそうだっただけでした。

こちらまで走れば、対象者は自然と周囲を見ます。

その中で、「同じように走ってくる人」がいたらどうでしょう。

偶然とは思えなくなります。

尾行では、対象者の行動に引っ張られすぎないことが大切です。

一番うまい尾行は、覚えられない尾行

24年間で何度も感じてきたことがあります。

調査が成功した日ほど、派手な場面はありません。

特別なことは何も起きない。

自然に車を走らせる。自然に歩く。自然に距離を取る。自然に交代する。

対象者の記憶に残らないまま、一日が終わる。

それが理想です。

ドラマになるのは、トラブルが起きた日です。

でも現実では、何事もなく終わる尾行ほど完成度が高いのです。

「見ている」のではなく、「見えている」

新人の頃は、対象者だけを見ています。

「どこへ行くんだろう。」

「誰と会うんだろう。」

でも経験を積むと、視野が変わります。

対象者だけではありません。

周囲の車。歩行者。信号。店舗の出入口。ミラーに映る景色。工事による交通規制。

全部が情報になります。

だから、ベテランほど対象者をじっと見ていません。

むしろ景色全体を見ています。

その中に対象者が自然と入っている感覚です。

これは言葉で教えるのが難しく、現場で何度も経験して身につくものです。

24年間で変わった尾行、変わらない尾行

ドライブレコーダーが普及しました。

防犯カメラは街中にあります。

スマートフォンで誰でも簡単に写真や動画を撮れる時代です。

昔より尾行は難しくなったと思いますか、と聞かれることがあります。

確かに環境は変わりました。

でも、本質は変わっていません。

相手の日常に、自分も自然に溶け込む。

目立たない。急がない。慌てない。

この基本だけは、24年前も今日も同じです。

編集後記

新人時代、先輩からこんなことを言われました。

「対象者を追うな。流れを追え。」

当時は意味が分かりませんでした。

でも24年経った今、その言葉の重みがよく分かります。

尾行は、足の速さを競う仕事ではありません。

どれだけ冷静でいられるか。

どれだけ自然でいられるか。

そして、どれだけ相手の日常に溶け込めるか。

それが、現場で本当に求められる技術なのだと思います。

次回予告

現場ノート#005「浮気をしている人ほど、家族に優しくなる。」──24年間で何度も見てきた“罪悪感”のサイン

「急に優しくなった」「プレゼントが増えた」「家事を手伝うようになった」。それは愛情なのか、それとも罪悪感なのか。24年間の現場経験から、行動心理についてお話しします。

梅澤賢樹(総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴24年)

執筆者

梅澤 賢樹(うめざわ まさき)

総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴24年・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号

24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。

👤 プロフィール・監修方針📊 浮気調査白書2026

連載「現場ノート」— 探偵歴24年、現場の本物を綴る

#001探偵として24年間、書けなかったことを書こうと思う#002ホテルよりコンビニが難しい理由#003「今日は動く。」──24年やっても説明できない“現場の勘”
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