「探偵って、第六感みたいなものがあるんですか?」
これも、よくいただく質問です。
テレビドラマでは、探偵が「今日は怪しい」とつぶやき、その予感どおり決定的な場面に遭遇することがあります。
現実は、そんなに都合よくはいきません。
ですが、24年間この仕事を続けてきて、不思議に思うことがあります。
朝、現場に着いた瞬間。
対象者の自宅や周辺の環境を見た瞬間。
車が駐車場に停まっている角度を見た瞬間。
「今日は動く気がする。」
そう感じる日があります。
これは霊感でも才能でもありません。
24年間積み重ねた経験が、一瞬で答えを出しているだけなのだと思います。
違和感は、いつも小さい
浮気調査で大きな違和感は、ほとんどありません。
むしろ、気づくのは本当に些細なことです。
例えば、いつもなら朝7時30分にカーテンが開く家なのに、その日は7時15分に開いた。
玄関先に置かれている自転車の向きが違う。
いつもバックで停める車が、前向きに停まっている。
ゴミ袋が出ていない。
新聞がまだポストに入っている。
一つひとつは、誰でも見過ごすようなことです。
でも、その小さな違和感が何個も重なる日があります。
そんな日は、現場の空気が少しだけ変わります。
車は正直です
24年間、何千台もの車を尾行してきました。
すると、車には運転手の心理が表れることが分かってきます。
急いでいる人。誰かと待ち合わせをしている人。時間を気にしている人。警戒している人。
同じ道を走っていても、アクセルの踏み方、車線変更のタイミング、信号待ちでの視線。
それらを見ていると、その日の「目的」が何となく伝わってくることがあります。
もちろん100%ではありません。
ですが、経験を積むほど、その精度は少しずつ高くなっていきます。
調査員同士の会話で、面白いことがあります。
ベテランの探偵同士で現場へ入ると、同じことを考えている日があるのです。
「今日、何かありそうですね。」
無線でそう話すことがあります。
根拠を聞かれても説明できません。
お互いに「なんでそう感じるのか?」——そんな野暮な質問は返しません。ただ、ベテランの探偵同士が共感する時。
その数時間後、本当に対象者が予想外の行動を取ることがあります。
逆に「今日は静かですね」と話した日は、本当に何も起きないことも少なくありません。
経験とは、こういう積み重ねなのだと思います。
勘だけでは調査はできない
ここで誤解してほしくないことがあります。
探偵は勘で調査をしているわけではありません。
勘は、調査方法を変えるための材料の一つに過ぎません。
「今日は動きそうだから人数を増やそう。」
「今日は車両をもう一台待機させよう。」
「今日は徒歩班も準備しておこう。」
こうした判断につなげるためのヒントです。
最終的に必要なのは、写真や動画、時系列を整理した客観的な証拠です。
裁判では「勘が当たりました」は証拠になりません。
だからこそ、経験と冷静さの両方が求められます。
一番危ないのは「思い込み」
24年間で何度も新人に伝えてきたことがあります。
「勘を信じるな。違和感を信じろ。」
「今日は絶対ホテルへ行く。」
そう思い込んだ瞬間、視野が狭くなります。
実際には、飲食店へ行くかもしれません。相手の家へ向かうかもしれません。職場の飲み会かもしれません。
調査で一番危険なのは、先入観です。
だから私たちは、どれだけ経験を積んでも「白かもしれない」という可能性を最後まで捨てません。
その姿勢が、結果として正確な調査につながります。
調査に絶対はないのです。
24年間で一番信頼しているもの
AIも進化しました。GPSも高性能になりました。ドライブレコーダーや防犯カメラも増えました。
便利な道具は、これからも増えていくでしょう。
それでも、私が一番信頼しているのは、
「現場で、自分の目で見ること」です。
画面越しでは分からない空気があります。
対象者の表情。歩く速度。待ち合わせをしている人との距離感、接し方。
言葉では説明できない"間"があります。
それは、現場に立った人しか感じることができません。
だから私は、24年経った今でも現場へ出続けています。
編集後記
現場では、「勘が当たった」というより、「違和感を見逃さなかった」という表現の方が正しいのかもしれません。
浮気調査は、派手な推理や偶然の連続ではありません。
毎日のように積み重ねた経験が、小さな違和感を「意味のある情報」として教えてくれる仕事です。
その積み重ねが、依頼者の人生を左右する一枚の証拠につながることがあります。
24年間、私はその小さな違和感を大切にしてきました。
新人によく言われることがあります。「なんで、ここに行くってわかったんですか?」——まるで預言者か占い師でも見るかのように、目を丸くして。
私は決まってこう答えます。
「これが、キャリアの差だよw」と。

執筆者
梅澤 賢樹(うめざわ まさき)
総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴24年・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号
24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。
