「そういえば、前もその曜日でした」
面談の途中で、依頼者がふと口にする一言があります。
前回お話ししたとおり、調査日を決める材料の多くは、この「そういえば」の中にあります。
ただ、この一言は、こちらから「何か気になることはありませんか」と聞いても、なかなか出てきません。
出てくるのは、順番を変えた時です。
探偵になりたての頃の私は、最初に「証拠になりそうな話」を聞いていました。帰りが遅い日はいつか。スマートフォンに何か残っていないか。相手に心当たりはあるか。
今は、最初にそれを聞きません。
今回は、面談で私が最初に何を聞き、何を聞かないようにしているのか。24年間で変わってきた、聞き方の順番についてお話しします。
最初に聞くのは、「普段の一日」

いま私が最初に伺うのは、対象者の普段の一日です。
何時に家を出て、どうやって職場へ向かうのか。昼はどこで食べているのか。何時ごろ帰るのか。休みの日は、家で何をしているのか。
浮気とは関係のない話に聞こえると思います。実際、ここで浮気の話はほとんど出ません。
それでも、最初にここを聞くのには理由があります。
普段が分からなければ、「いつもと違う」が分からないからです。
帰宅が二十一時だと聞いても、それが普段どおりなのか、最近増えたことなのかで意味は変わります。休日に一人で出かける話も、以前からの習慣なら、それだけで調べる理由にはなりません。
普段の一日を一緒になぞっていくと、依頼者の側で、小さな引っかかりが見つかり始めます。
「あれ、そういえば、この時間に帰るのは最近です」
その言葉は、こちらが「怪しい点は」と聞いた時ではなく、普段を話している途中で出てきます。
「いつから」を、先に決めない
次に伺うのは、「変わったと感じたのはいつ頃か」です。
ここで気をつけているのは、こちらから時期を決めないことです。
「三か月くらい前からですか」と聞けば、依頼者はそこに合わせて記憶を探します。本当は半年前に最初の違和感があったとしても、その話は出てきにくくなります。
ですから、「最初に、何かおかしいと思ったのはどんな場面でしたか」と、場面で聞きます。
時期ではなく、場面です。
「子どもの発表会の日に、珍しく仕事だと言われた」
「香水の匂いが、いつもと違った日があった」
場面が出てくると、その前後の出来事がつながり始めます。あの時も同じ曜日だった、その少し前からスマートフォンを裏返して置くようになった。
時期を先に決めると、この連鎖が止まります。
「説明」と「実際」を、分けて聞く
対象者が依頼者に伝えている予定と、実際の行動。
面談では、この二つを分けて伺うようにしています。
「飲み会だと言われた日は、何時に帰りましたか」
「出張だと聞いた日は、どこに泊まる予定でしたか」
説明そのものを疑うためではありません。
説明と実際のずれがあるかどうかは、依頼者ご本人が一番よく知っています。ただ、その二つは日常の中で混ざっていて、改めて分けて考える機会がない。
分けて聞くと、ずれがある日と、ずれがない日が見えてきます。
ずれのない日は、調査の候補から外せます。ずれのある日に共通する条件があれば、それが調査日を決める材料になります。
前回お話しした「会える条件」は、ここから拾い出しています。
「そういえば」は、沈黙の後に出てくる

面談で私が一番大切にしているのは、間です。
質問をして、依頼者が答えて、少し沈黙が続く。
その時に、次の質問を急がないようにしています。
答え終わった後の数秒で、依頼者は自分の答えを聞き直しています。そして、話しながら思い出したことを、もう一度口にします。
「そういえば、その前の週も、同じことを言っていました」
この一言は、沈黙の後に出てくることが多い。
探偵になった頃の私は、面談を効率よく進めようとして、質問を矢継ぎ早にしていました。聞きたいことは全部聞けている。でも、依頼者が思い出す時間を、こちらが奪っていました。
今は、答えの後に、一呼吸置きます。
相談を受ける側が黙っている時間は、依頼者にとって少し気まずいかもしれません。それでも、その間に出てくる話が、調査日を変えることがあります。
聞かないと決めていること
最初に聞かない、と決めていることもあります。
一つは、「相手に心当たりはありますか」です。
心当たりがあれば、依頼者は面談の最初から話してくださいます。こちらから先に聞くと、その人物を前提にした話し方になり、普段との違いが埋もれていきます。
相手が誰かは、調査で確かめることです。面談で決めることではありません。
もう一つは、「スマートフォンの中身は見ましたか」です。
見ていれば、その話は自然に出てきます。見ていないのに、こちらが聞けば、「見た方がいいのか」と受け取られます。無断で見ることは法律上の問題があり、相手に警戒される一番の原因にもなります。
面談で勧めることはありません。
聞かないと決めていることがあるのは、聞くことを減らしたいからではなく、依頼者の話し方を、こちらの質問で狭めたくないからです。
話を遮らない、まとめない

依頼者の話は、時系列どおりには進みません。
先週の話から半年前に飛び、また昨日の話に戻る。同じ話が、別の言葉で二度出てくることもあります。
探偵になりたての頃は、それを途中で整理しようとしていました。「つまり、こういうことですね」とまとめて、次に進む。
今は、まとめません。
二度出てきた話は、依頼者にとって一番引っかかっている出来事です。別の言葉で出てきたなら、そこに前回は言わなかった情報が足されています。
整理するのは、面談のあとで十分です。
時系列に並べるのは私の仕事であって、依頼者にお願いすることではありません。順番がばらばらのまま話していただいた方が、「そういえば」は出てきます。
面談は、尋問ではない
依頼者の中には、面談を「調べられる時間」のように感じて来られる方がいます。
話す内容を紙にまとめて、証拠になりそうなものを選んで持ってこられる方もいます。
その準備は、とてもありがたいものです。ただ、紙に書かれていない話の方に、調査日を決める材料があることも多い。
だから私は、最初に普段の一日を伺い、場面で聞き、説明と実際を分けて、沈黙を待ちます。
聞きたいことを全部聞く面談ではなく、依頼者が思い出せる面談にする。
24年間で変わったのは、質問の数ではなく、順番と、待ち方でした。
「そういえば」が出てきた時、その日の面談は、調査の準備としてうまくいっています。
編集後記
前回の「勝負日の見極め方」の続きとして、材料になる話をどう引き出しているかを書きました。
面談で何を聞くかは、探偵によって違うと思います。ここに書いたのは、私の順番です。
ご相談の前に、何かを整理しておく必要はありません。普段の一日を話していただければ、あとは面談の中で一緒に思い出していきます。
次回予告
現場ノート#024「報告書に書かないこと。」──24年間、依頼者に渡す前に必ず外してきた情報
調査報告書は、確認できた事実をすべて書く書類だと思われています。けれど、私が報告書に載せないと決めている情報があります。裁判で使えないものではなく、依頼者のこれからに要らないもの。何を外し、なぜ外すのか。報告書を渡す前の、最後の判断についてお話しします。

執筆者
梅澤 賢樹(うめざわ まさき)
総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴25年目・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号
24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。
