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2026.10.14 コラム

現場ノート#023|「依頼者の『そういえば』を引き出す聞き方。」──24年間で変わった、面談で最初に聞くこと

梅澤 賢樹|総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴25年目

現場ノート#023 依頼者のそういえばを引き出す聞き方。──24年間で変わった、面談で最初に聞くこと

「そういえば、前もその曜日でした」

面談の途中で、依頼者がふと口にする一言があります。

前回お話ししたとおり、調査日を決める材料の多くは、この「そういえば」の中にあります。

ただ、この一言は、こちらから「何か気になることはありませんか」と聞いても、なかなか出てきません。

出てくるのは、順番を変えた時です。

探偵になりたての頃の私は、最初に「証拠になりそうな話」を聞いていました。帰りが遅い日はいつか。スマートフォンに何か残っていないか。相手に心当たりはあるか。

今は、最初にそれを聞きません。

今回は、面談で私が最初に何を聞き、何を聞かないようにしているのか。24年間で変わってきた、聞き方の順番についてお話しします。

最初に聞くのは、「普段の一日」

朝の玄関。揃えられた靴と、鍵が置かれた棚。日常の一日が始まる前の静かな場面。人物は写さない

いま私が最初に伺うのは、対象者の普段の一日です。

何時に家を出て、どうやって職場へ向かうのか。昼はどこで食べているのか。何時ごろ帰るのか。休みの日は、家で何をしているのか。

浮気とは関係のない話に聞こえると思います。実際、ここで浮気の話はほとんど出ません。

それでも、最初にここを聞くのには理由があります。

普段が分からなければ、「いつもと違う」が分からないからです。

帰宅が二十一時だと聞いても、それが普段どおりなのか、最近増えたことなのかで意味は変わります。休日に一人で出かける話も、以前からの習慣なら、それだけで調べる理由にはなりません。

普段の一日を一緒になぞっていくと、依頼者の側で、小さな引っかかりが見つかり始めます。

「あれ、そういえば、この時間に帰るのは最近です」

その言葉は、こちらが「怪しい点は」と聞いた時ではなく、普段を話している途中で出てきます。

「いつから」を、先に決めない

次に伺うのは、「変わったと感じたのはいつ頃か」です。

ここで気をつけているのは、こちらから時期を決めないことです。

「三か月くらい前からですか」と聞けば、依頼者はそこに合わせて記憶を探します。本当は半年前に最初の違和感があったとしても、その話は出てきにくくなります。

ですから、「最初に、何かおかしいと思ったのはどんな場面でしたか」と、場面で聞きます。

時期ではなく、場面です。

「子どもの発表会の日に、珍しく仕事だと言われた」

「香水の匂いが、いつもと違った日があった」

場面が出てくると、その前後の出来事がつながり始めます。あの時も同じ曜日だった、その少し前からスマートフォンを裏返して置くようになった。

時期を先に決めると、この連鎖が止まります。

「説明」と「実際」を、分けて聞く

対象者が依頼者に伝えている予定と、実際の行動。

面談では、この二つを分けて伺うようにしています。

「飲み会だと言われた日は、何時に帰りましたか」

「出張だと聞いた日は、どこに泊まる予定でしたか」

説明そのものを疑うためではありません。

説明と実際のずれがあるかどうかは、依頼者ご本人が一番よく知っています。ただ、その二つは日常の中で混ざっていて、改めて分けて考える機会がない。

分けて聞くと、ずれがある日と、ずれがない日が見えてきます。

ずれのない日は、調査の候補から外せます。ずれのある日に共通する条件があれば、それが調査日を決める材料になります。

前回お話しした「会える条件」は、ここから拾い出しています。

「そういえば」は、沈黙の後に出てくる

面談室のテーブル。相談者が話を止めて、少し視線を落としている手元。向かいのノートにはペンが置かれたまま。顔は写さない

面談で私が一番大切にしているのは、間です。

質問をして、依頼者が答えて、少し沈黙が続く。

その時に、次の質問を急がないようにしています。

答え終わった後の数秒で、依頼者は自分の答えを聞き直しています。そして、話しながら思い出したことを、もう一度口にします。

「そういえば、その前の週も、同じことを言っていました」

この一言は、沈黙の後に出てくることが多い。

探偵になった頃の私は、面談を効率よく進めようとして、質問を矢継ぎ早にしていました。聞きたいことは全部聞けている。でも、依頼者が思い出す時間を、こちらが奪っていました。

今は、答えの後に、一呼吸置きます。

相談を受ける側が黙っている時間は、依頼者にとって少し気まずいかもしれません。それでも、その間に出てくる話が、調査日を変えることがあります。

聞かないと決めていること

最初に聞かない、と決めていることもあります。

一つは、「相手に心当たりはありますか」です。

心当たりがあれば、依頼者は面談の最初から話してくださいます。こちらから先に聞くと、その人物を前提にした話し方になり、普段との違いが埋もれていきます。

相手が誰かは、調査で確かめることです。面談で決めることではありません。

もう一つは、「スマートフォンの中身は見ましたか」です。

見ていれば、その話は自然に出てきます。見ていないのに、こちらが聞けば、「見た方がいいのか」と受け取られます。無断で見ることは法律上の問題があり、相手に警戒される一番の原因にもなります。

面談で勧めることはありません。

聞かないと決めていることがあるのは、聞くことを減らしたいからではなく、依頼者の話し方を、こちらの質問で狭めたくないからです。

話を遮らない、まとめない

面談のあと、事務所の机で付箋とメモを時系列に並べ直している手元。時計は夕方

依頼者の話は、時系列どおりには進みません。

先週の話から半年前に飛び、また昨日の話に戻る。同じ話が、別の言葉で二度出てくることもあります。

探偵になりたての頃は、それを途中で整理しようとしていました。「つまり、こういうことですね」とまとめて、次に進む。

今は、まとめません。

二度出てきた話は、依頼者にとって一番引っかかっている出来事です。別の言葉で出てきたなら、そこに前回は言わなかった情報が足されています。

整理するのは、面談のあとで十分です。

時系列に並べるのは私の仕事であって、依頼者にお願いすることではありません。順番がばらばらのまま話していただいた方が、「そういえば」は出てきます。

面談は、尋問ではない

依頼者の中には、面談を「調べられる時間」のように感じて来られる方がいます。

話す内容を紙にまとめて、証拠になりそうなものを選んで持ってこられる方もいます。

その準備は、とてもありがたいものです。ただ、紙に書かれていない話の方に、調査日を決める材料があることも多い。

だから私は、最初に普段の一日を伺い、場面で聞き、説明と実際を分けて、沈黙を待ちます。

聞きたいことを全部聞く面談ではなく、依頼者が思い出せる面談にする。

24年間で変わったのは、質問の数ではなく、順番と、待ち方でした。

「そういえば」が出てきた時、その日の面談は、調査の準備としてうまくいっています。

編集後記

前回の「勝負日の見極め方」の続きとして、材料になる話をどう引き出しているかを書きました。

面談で何を聞くかは、探偵によって違うと思います。ここに書いたのは、私の順番です。

ご相談の前に、何かを整理しておく必要はありません。普段の一日を話していただければ、あとは面談の中で一緒に思い出していきます。

次回予告

現場ノート#024「報告書に書かないこと。」──24年間、依頼者に渡す前に必ず外してきた情報

調査報告書は、確認できた事実をすべて書く書類だと思われています。けれど、私が報告書に載せないと決めている情報があります。裁判で使えないものではなく、依頼者のこれからに要らないもの。何を外し、なぜ外すのか。報告書を渡す前の、最後の判断についてお話しします。

梅澤賢樹(総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴25年目)

執筆者

梅澤 賢樹(うめざわ まさき)

総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴25年目・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号

24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。

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連載「現場ノート」— 探偵歴25年目、現場の本物を綴る

← 前話 #022「探偵が『今日は動く』と判断する瞬間。」──24年間で身についた“勝負日の見極め方”次話 #024 →「報告書に書かないこと。」──24年間、依頼者に渡す前に必ず外してきた情報📚 連載目次|現場ノートの全話一覧を見る→

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