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2026.10.16 コラム

現場ノート#024|「報告書に書かないこと。」──24年間、依頼者に渡す前に必ず外してきた情報

梅澤 賢樹|総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴25年目

現場ノート#024 報告書に書かないこと。──24年間、依頼者に渡す前に必ず外してきた情報

調査を終えて、写真と記録を並べる。

何時に、どこを出たのか。誰と会い、どこへ向かったのか。確認できた行動を時系列に整理して、報告書を作ります。

けれど、現場のメモをそのまま書き写せば、報告書が完成するわけではありません。

依頼者にお渡しする前に、私は一つずつ文章を読み直します。

これは、実際に確認したことか。

この表現で、確認できた範囲が正しく伝わるか。

この情報は、今回の調査目的に関係しているか。

その確認の中で、外す言葉や情報があります。

ただし、依頼者が傷つくからという理由で、重要な事実を隠すことはありません。望んでいた結果と違っていても、確認できたことは正確に伝える必要があります。

私が外すのは、事実を理解するために必要な情報ではなく、その理解を曇らせるものです。

今回は、報告書をお渡しする前の、最後の判断についてお話しします。

現場で感じたことと、確認できたことは違う

現場では、さまざまな印象を持ちます。

二人の距離が近い。待ち合わせに慣れているように見える。別れる時に名残惜しそうだった。

長く調査をしていると、行動から感じ取るものはあります。ただ、その印象を、そのまま事実として報告書に書くことはできません。

例えば、二人が歩きながら笑っていたとします。

笑っている様子を確認できたことと、「二人は幸せそうだった」と判断することは、別です。

「幸せそう」という言葉には、書いた人の受け取り方が入ります。同じ写真を見ても、依頼者や第三者が同じように受け取るとは限りません。

だから私は、確認できた動作を書くようにします。

手をつないだのであれば、その行動を書く。

抱き合ったのであれば、その行動を書く。

気持ちを言い当てる言葉は外し、何をしていたのかが伝わる記録を残します。

二人の気持ちを、こちらで決めない

浮気調査の報告書で、特に慎重になるのは、関係性を表す言葉です。

「深く愛し合っている」

「家庭を忘れて楽しんでいる」

「依頼者への気持ちは、もうない」

こうしたことは、外から行動を見ているだけでは分かりません。

会っていたことが確認できても、本人がどんな気持ちでいたのかまでは、確認できない場合がほとんどです。

それでも、報告書に書かれた言葉は重く残ります。

依頼者が、何度もその一文を読み返すかもしれません。その言葉を前提に、今後の話し合いを考えるかもしれません。

だからこそ、探偵が想像した気持ちを、対象者の気持ちとして渡してはいけないと思っています。

関係を判断する材料になる行動は、きちんと記録する。

その先の心情を、こちらで埋めない。

報告書では、その境目を守ります。

「見えなかった時間」を、想像でつながない

夜のマンションのエントランスを道路の向かいから。自動ドアが閉まった直後、中は見えない。人物なし

調査では、すべての時間を同じように確認できるわけではありません。

建物の中に入れば、外からは見えなくなります。人混みや交通の状況によって、行動を確認できない時間が生じることもあります。

報告書を読みやすくするために、その空白を自然な文章でつなぎたくなることがあります。

けれど、確認できなかった時間には、確認できなかったという限界があります。

入るところを確認した。

その後、出るところを確認した。

その二つの事実があっても、中で何をしていたのかまで見たことにはなりません。

途中の行動を確認できていなければ、継続して見ていたような書き方もしません。

報告書の空白をなくすために、事実の境界を曖昧にすることはできない。

何が分かり、何が分からないのか。その違いも、依頼者にお渡しする情報の一部です。

調査と関係のない人の情報を、広げない

現場の写真には、対象者以外の人も写ります。

通行人、店員、同じ建物を利用している人。調査とは関係のない人が、偶然画角に入ることはあります。

そこで考えるのは、その人の顔や情報まで、報告書に載せる必要があるかどうかです。

対象者の行動や同行者を確認するために必要な情報は残します。一方で、無関係な人の顔や、今回の目的に関係しない個人情報は、必要に応じて掲載用の写真で見えないようにします。

ただし、写真を整理することで、誰が誰なのか、どんな場面なのかが分からなくなっては意味がありません。

対象者との位置関係や、行動を理解するために必要な状況は保つ。

元の記録と、報告書に掲載する写真を区別しながら、関係のない人の情報まで広げないようにする。

これも、報告書を作る時の確認です。

似た写真を増やせば、伝わるわけではない

机の上に並べた同じ場面の写真が十数枚。そのうち3枚だけを手前に選び分けている手元

同じ場面を、何枚も撮影していることがあります。

歩いているところ。建物に近づくところ。入口を通るところ。

その中には、行動の流れを示すために必要な写真もあれば、ほとんど同じ内容の写真もあります。

すべてを並べると、報告書は厚くなります。けれど、厚さと分かりやすさは同じではありません。

似た写真が続くことで、大切な場面が埋もれることもあります。

依頼者にとっては、一枚を見るだけでもつらい場面かもしれません。その写真を何枚も繰り返し見る負担もあります。

だから、掲載する写真には役割を持たせます。

本人を確認するための一枚。

場所を確認するための一枚。

入退室や接触の流れを示すための一枚。

必要な連続性や判断材料を削らず、重複だけを整理する。

写真を減らす時にも、何を伝えるために残すのかを考えています。

厳しい事実は、外さない

ここまで読むと、「依頼者のために、都合の悪い情報を省くのか」と感じる方もいるかもしれません。

そこは、はっきりお伝えしておきたいと思います。

調査目的に関係する重要な事実は、依頼者にとってつらい内容でも外しません。

反対に、疑っていた行動が確認できなかった場合も、その結果を正確に伝えます。

接触を確認できなかった日に、何かあったような文章を書くことはありません。特定の相手を疑っていたとしても、確認できた同行者が別の人なら、その事実を報告します。

ただ、「今回の調査では確認できなかった」という結果だけで、「関係は一切ない」とも決められません。

調査した日時と範囲の中で、何が確認できたのか。

報告書が伝えるのは、その結果です。

依頼者を安心させるためにも、疑いを強めるためにも、事実を動かさない。

その姿勢がなければ、次の判断に使える報告書にはならないと思っています。

最後に外すのは、探偵の結論

面談室。製本された報告書を相談者の前にそっと置く手元。相談者の手は膝の上。顔は写さない

報告書を読んだ後、どうするのか。

話し合うのか。関係を修復したいのか。離婚を考えるのか。まずは専門家に相談するのか。

その選択は、依頼者の生活につながっています。

だから報告書に、「別れるべきです」「許すべきではありません」といった、私の結論は書きません。

依頼者が調査を頼んだ理由も、望んでいる今後も、人によって違います。同じような行動が確認されても、その後に選ぶ道は同じではありません。

相談の中で、選択肢を一緒に整理することはあります。

それでも、報告書の事実と、今後についての相談は分けて考えます。

探偵がどう思ったかで、依頼者の進む道を決めてしまわない。

判断するための材料を、正確に、分かりやすく渡す。

報告書をお渡しする前に、最後に確かめているのは、その形になっているかどうかです。

編集後記

調査報告書は、調査が終わったことを知らせるだけの書類ではありません。

依頼者が、ご自身の状況を確かめ、これからを考える時に読み返すものです。

だから、一つの形容詞や、確認していないことを補う一文にも気をつけます。

24年間で、報告書に言葉を足すことと同じくらい、余分な言葉を外すことを大切にするようになりました。

必要な事実は残す。

確認できないことは、確認できないと伝える。

その先の選択を、こちらで決めない。

依頼者にお渡しする前に、もう一度読む。

その最後の確認までが、私の調査の仕事です。

次回予告

現場ノート#025「報告書を渡した後に、依頼者から来る電話。」──24年間で一番多かった質問と、私の答え

報告書をお渡しして、面談が終わる。その数日後に、依頼者から電話が来ることがあります。内容は、ほとんど同じです。「この写真は、本当に夫ですか」「この日以外は、何もなかったということですか」。報告書を読み返した人が、最初に確かめたくなること。24年間で一番多かった質問と、私がどう答えてきたかをお話しします。

梅澤賢樹(総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴25年目)

執筆者

梅澤 賢樹(うめざわ まさき)

総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴25年目・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号

24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。

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連載「現場ノート」— 探偵歴25年目、現場の本物を綴る

← 前話 #023「依頼者の『そういえば』を引き出す聞き方。」──24年間で変わった、面談で最初に聞くこと📚 連載目次|現場ノートの全話一覧を見る→

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