調査を終えて、写真と記録を並べる。
何時に、どこを出たのか。誰と会い、どこへ向かったのか。確認できた行動を時系列に整理して、報告書を作ります。
けれど、現場のメモをそのまま書き写せば、報告書が完成するわけではありません。
依頼者にお渡しする前に、私は一つずつ文章を読み直します。
これは、実際に確認したことか。
この表現で、確認できた範囲が正しく伝わるか。
この情報は、今回の調査目的に関係しているか。
その確認の中で、外す言葉や情報があります。
ただし、依頼者が傷つくからという理由で、重要な事実を隠すことはありません。望んでいた結果と違っていても、確認できたことは正確に伝える必要があります。
私が外すのは、事実を理解するために必要な情報ではなく、その理解を曇らせるものです。
今回は、報告書をお渡しする前の、最後の判断についてお話しします。
現場で感じたことと、確認できたことは違う
現場では、さまざまな印象を持ちます。
二人の距離が近い。待ち合わせに慣れているように見える。別れる時に名残惜しそうだった。
長く調査をしていると、行動から感じ取るものはあります。ただ、その印象を、そのまま事実として報告書に書くことはできません。
例えば、二人が歩きながら笑っていたとします。
笑っている様子を確認できたことと、「二人は幸せそうだった」と判断することは、別です。
「幸せそう」という言葉には、書いた人の受け取り方が入ります。同じ写真を見ても、依頼者や第三者が同じように受け取るとは限りません。
だから私は、確認できた動作を書くようにします。
手をつないだのであれば、その行動を書く。
抱き合ったのであれば、その行動を書く。
気持ちを言い当てる言葉は外し、何をしていたのかが伝わる記録を残します。
二人の気持ちを、こちらで決めない
浮気調査の報告書で、特に慎重になるのは、関係性を表す言葉です。
「深く愛し合っている」
「家庭を忘れて楽しんでいる」
「依頼者への気持ちは、もうない」
こうしたことは、外から行動を見ているだけでは分かりません。
会っていたことが確認できても、本人がどんな気持ちでいたのかまでは、確認できない場合がほとんどです。
それでも、報告書に書かれた言葉は重く残ります。
依頼者が、何度もその一文を読み返すかもしれません。その言葉を前提に、今後の話し合いを考えるかもしれません。
だからこそ、探偵が想像した気持ちを、対象者の気持ちとして渡してはいけないと思っています。
関係を判断する材料になる行動は、きちんと記録する。
その先の心情を、こちらで埋めない。
報告書では、その境目を守ります。
「見えなかった時間」を、想像でつながない

調査では、すべての時間を同じように確認できるわけではありません。
建物の中に入れば、外からは見えなくなります。人混みや交通の状況によって、行動を確認できない時間が生じることもあります。
報告書を読みやすくするために、その空白を自然な文章でつなぎたくなることがあります。
けれど、確認できなかった時間には、確認できなかったという限界があります。
入るところを確認した。
その後、出るところを確認した。
その二つの事実があっても、中で何をしていたのかまで見たことにはなりません。
途中の行動を確認できていなければ、継続して見ていたような書き方もしません。
報告書の空白をなくすために、事実の境界を曖昧にすることはできない。
何が分かり、何が分からないのか。その違いも、依頼者にお渡しする情報の一部です。
調査と関係のない人の情報を、広げない
現場の写真には、対象者以外の人も写ります。
通行人、店員、同じ建物を利用している人。調査とは関係のない人が、偶然画角に入ることはあります。
そこで考えるのは、その人の顔や情報まで、報告書に載せる必要があるかどうかです。
対象者の行動や同行者を確認するために必要な情報は残します。一方で、無関係な人の顔や、今回の目的に関係しない個人情報は、必要に応じて掲載用の写真で見えないようにします。
ただし、写真を整理することで、誰が誰なのか、どんな場面なのかが分からなくなっては意味がありません。
対象者との位置関係や、行動を理解するために必要な状況は保つ。
元の記録と、報告書に掲載する写真を区別しながら、関係のない人の情報まで広げないようにする。
これも、報告書を作る時の確認です。
似た写真を増やせば、伝わるわけではない

同じ場面を、何枚も撮影していることがあります。
歩いているところ。建物に近づくところ。入口を通るところ。
その中には、行動の流れを示すために必要な写真もあれば、ほとんど同じ内容の写真もあります。
すべてを並べると、報告書は厚くなります。けれど、厚さと分かりやすさは同じではありません。
似た写真が続くことで、大切な場面が埋もれることもあります。
依頼者にとっては、一枚を見るだけでもつらい場面かもしれません。その写真を何枚も繰り返し見る負担もあります。
だから、掲載する写真には役割を持たせます。
本人を確認するための一枚。
場所を確認するための一枚。
入退室や接触の流れを示すための一枚。
必要な連続性や判断材料を削らず、重複だけを整理する。
写真を減らす時にも、何を伝えるために残すのかを考えています。
厳しい事実は、外さない
ここまで読むと、「依頼者のために、都合の悪い情報を省くのか」と感じる方もいるかもしれません。
そこは、はっきりお伝えしておきたいと思います。
調査目的に関係する重要な事実は、依頼者にとってつらい内容でも外しません。
反対に、疑っていた行動が確認できなかった場合も、その結果を正確に伝えます。
接触を確認できなかった日に、何かあったような文章を書くことはありません。特定の相手を疑っていたとしても、確認できた同行者が別の人なら、その事実を報告します。
ただ、「今回の調査では確認できなかった」という結果だけで、「関係は一切ない」とも決められません。
調査した日時と範囲の中で、何が確認できたのか。
報告書が伝えるのは、その結果です。
依頼者を安心させるためにも、疑いを強めるためにも、事実を動かさない。
その姿勢がなければ、次の判断に使える報告書にはならないと思っています。
最後に外すのは、探偵の結論

報告書を読んだ後、どうするのか。
話し合うのか。関係を修復したいのか。離婚を考えるのか。まずは専門家に相談するのか。
その選択は、依頼者の生活につながっています。
だから報告書に、「別れるべきです」「許すべきではありません」といった、私の結論は書きません。
依頼者が調査を頼んだ理由も、望んでいる今後も、人によって違います。同じような行動が確認されても、その後に選ぶ道は同じではありません。
相談の中で、選択肢を一緒に整理することはあります。
それでも、報告書の事実と、今後についての相談は分けて考えます。
探偵がどう思ったかで、依頼者の進む道を決めてしまわない。
判断するための材料を、正確に、分かりやすく渡す。
報告書をお渡しする前に、最後に確かめているのは、その形になっているかどうかです。
編集後記
調査報告書は、調査が終わったことを知らせるだけの書類ではありません。
依頼者が、ご自身の状況を確かめ、これからを考える時に読み返すものです。
だから、一つの形容詞や、確認していないことを補う一文にも気をつけます。
24年間で、報告書に言葉を足すことと同じくらい、余分な言葉を外すことを大切にするようになりました。
必要な事実は残す。
確認できないことは、確認できないと伝える。
その先の選択を、こちらで決めない。
依頼者にお渡しする前に、もう一度読む。
その最後の確認までが、私の調査の仕事です。
次回予告
現場ノート#025「報告書を渡した後に、依頼者から来る電話。」──24年間で一番多かった質問と、私の答え
報告書をお渡しして、面談が終わる。その数日後に、依頼者から電話が来ることがあります。内容は、ほとんど同じです。「この写真は、本当に夫ですか」「この日以外は、何もなかったということですか」。報告書を読み返した人が、最初に確かめたくなること。24年間で一番多かった質問と、私がどう答えてきたかをお話しします。

執筆者
梅澤 賢樹(うめざわ まさき)
総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴25年目・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号
24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。
