「探偵って、尾行が上手い人が優秀なんですよね?」
この質問も、本当によくいただきます。
もちろん、尾行や張り込みの技術は重要です。
ですが、24年間、10,000件を超える現場に立ってきた私が思うのは、
調査の勝敗は、現場へ着く前に8割決まっています。
少し大げさに聞こえるかもしれません。
でも、これは私が24年間、一度も変わらず持ち続けている考えです。
現場へ向かう前から調査は始まっている
調査当日の朝。
調査員が最初にやることは、カメラの電源を入れることではありません。
まず確認するのは、
地図です。
対象者の自宅周辺。
勤務先。
最寄り駅。
抜け道。
一方通行。
コンビニ。
コインパーキング。
信号の位置。
右折レーン。
24年間、毎回のように確認しています。
「この道なら右折できない。」
「この時間は渋滞する。」
「ここは小学校だから朝は混む。」
そんな情報が、数時間後の調査を助けてくれます。
Googleマップでは分からないこと
便利な時代になりました。
地図アプリを開けば、道路も航空写真も見られます。
ですが、
実際に現場へ行くと、違うことがよくあります。
新しくできた建物。
工事中の道路。
駐車禁止になった場所。
植木が伸びて見えなくなった出入口。
逆に、更地になって視界が開けていることもあります。
だから私は、可能な限り事前に現地を確認します。
現場は、地図の中にはありません。
「どこへ停めるか」は、何通りも考える
調査車両は、適当に停めているわけではありません。
もし対象者が徒歩なら。
車なら。
反対方向へ出たら。
予備の車両はどこに置くか。
交代するならどこが自然か。
すべてを考えます。
一つの現場で、駐車候補を10か所以上考えることも珍しくありません。
その準備があるから、
急な動きにも対応できます。
調査員同士で一番話すこと
現場へ向かう車の中では、
「今日は頑張ろう。」
そんな話は、ほとんどしません。
話すのは、
「この交差点は右折待ちが長い。」
「この駅は南口が混む。」
「この時間は通学路になる。」
そんなことばかりです。
24年間、現場で感じるのは、
調査力とは、知識の量ではなく、準備の量だということです。
一枚の地図から始まる
新人調査員へ最初に教えることがあります。
「現場へ行く前に、地図を30分見てみなさい。」
最初は意味が分からないようです。
でも実際に現場へ出ると、
「あ、この道ですね。」
「ここで交代したんですね。」
地図の見え方が変わります。
経験とは、
現場だけで身につくものではありません。
準備の積み重ねでもあります。
調査は「想定外」を減らす仕事
24年間で何度も思いました。
現場では必ず想定外が起きます。
対象者が急に走る。
予定外の人が同乗する。
高速道路へ入る。
新幹線に乗る。
飛行機に乗る。
こればかりは止められません。
でも、
想定できることまで想定外にしてはいけない。
これが私たちの考えです。
だから準備をします。
ベテランほど準備に時間をかける
新人ほど、
「現場で何とかします。」
と言います。
ベテランほど、
「現場で何とかしないために準備します。」
と言います。
この違いは、とても大きい。
実際、24年間で調査がうまくいった日は、
ほとんどが準備通りに進んだ日でした。
逆に苦戦した日は、
「ここまでは想定していなかった。」
という場面が重なっています。
「何も起きない準備」が理想
調査が終わると、
依頼者から
「大変でしたね。」
と言われることがあります。
でも、本当に準備ができていた日は、
調査員同士で大きな声を出すこともありません。
慌てることもありません。
無線が飛び交うこともありません。
静かに終わります。
何も起きなかったように見える。
それが、一番理想の調査です。
24年間で変わらないもの
カメラは小さくなりました。
通信機器は進化しました。
AIも使われる時代になりました。
でも、
「準備が調査を作る」
という考えだけは、24年間一度も変わりません。
尾行が上手い探偵ではなく、
準備を怠らない探偵。
私は、そんな調査員と一緒に現場へ出たいと思っています。
編集後記
若い頃、ある先輩がこんなことを言いました。
「現場で焦るのは、準備不足の証拠だ。」
当時は厳しい言葉だと思いました。
でも今なら、その意味がよく分かります。
準備とは、
安心するためではありません。
依頼者の人生を預かる仕事だからこそ、少しでも失敗する可能性を減らすために行うものです。
24年間。
現場へ向かう前の時間を、私は一度も軽く考えたことはありません。
次回予告
現場ノート#011「浮気をする人は、嘘が上手いわけではない。」──24年間で見えてきた“隠し方”の共通点
「完璧に隠している」と思われる対象者でも、現場では小さな綻びが見えてきます。人はどこで嘘をつき、どこで本音が出るのか。探偵だからこそ気づく、人間らしい一面についてお話しします。

執筆者
梅澤 賢樹(うめざわ まさき)
総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴24年・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号
24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。
