「探偵って、一人で尾行するんですよね?」
テレビドラマの影響でしょうか。
ロングコートを着た探偵が、一人で電柱に隠れ、最後まで対象者を追い続ける。
そんなイメージを持たれている方が少なくありません。
もちろん、一人で対応できるような簡単な調査もあります。
ですが、24年間、10,000件を超える浮気調査を経験してきた私が断言できることがあります。
それは、本当に質の高い浮気調査は、一人ではできません。
むしろ、探偵としてキャリアを積むほど「チーム」の大切さを痛感します。
一人が優秀でも、限界はある
どれだけ経験がある探偵でも、
人間が同時に見られる方向は一つです。
対象者が急に駅へ入った。
改札が二つある。
ホームが三つある。
電車が同時に入ってきた。
この状況で、一人ができることには限界があります。
探偵も人間です。
トイレや食事なども必要。
チームであれば交代でそういったことも出来ます。
車の調査も同じです。
対象者が右折した。
その瞬間、対向車が来た。
信号が赤になった。
こういう場面は毎日のようにあります。
一人なら終わってしまう調査も、
もう一台車両があったり、バイクがいれば続けられる。
それがチーム調査です。
一番大切なのは「交代」
24年間で、一番多く使った技術があります。
それは尾行ではありません。
交代です。
同じ車が何十分も後ろを走っていたら、不自然です。
同じ人が駅でも店でも見えたら、記憶に残ります。
だから私たちは、
自然に入れ替わります。
赤信号で。
コンビニで。
交差点で。
駅前で。
対象者に気づかれないよう、
何もなかったように。
この交代が上手くいくかどうかで、
調査の成否が決まることも珍しくありません。
無線で一番多い言葉
ドラマでは、
「対象発見!」
「追え!」
そんな無線が飛び交っています。
現実は違います。
24年間で、一番多く話した言葉は、
「そのままで大丈夫です。」
です。
焦らない。
詰めない。
無理をしない。
前の車両が少し離れる。
後ろの車両が自然に入る。
徒歩班が待機する。
チーム調査とは、
派手な連携ではなく、
「何も起きないように動く技術」
なのです。
誰か一人が目立ったら負け
新人の頃は、
「自分が見失わない。」
ことばかり考えていました。
でもベテランになると、
「チーム全体が目立たない。」
ことを考えるようになります。
自分が頑張るより、
仲間が動きやすい位置へ移動する。
自分が撮るより、
一番いい角度にいる調査員へ任せる。
そういう判断が増えていきます。
現場では、
個人プレーより、
チームプレーの方がずっと難しい。
私はそう思っています。
「撮った人」が偉いわけじゃない
決定的な写真を撮る調査員がいます。
でも、その一枚は、
何時間も前から別の調査員が尾行を続け、
交代を繰り返し、
警戒されないようにつないできた結果です。
写真を撮った一人だけの成果ではありません。
調査報告書に調査員の名前は書きません。
それでいいと思っています。
現場では、
「誰が撮ったか」より、
「チームで撮れたか」
の方がずっと大切です。
ベテランほど、仲間を信じる
若い頃は、
「自分で見ていたい。」
と思っていました。
交代すると不安でした。
でも24年間やってきて分かったことがあります。
本当に強い調査チームは、
仲間を信じています。
「次は任せる。」
その一言が言える。
だから全員が冷静でいられる。
それが結果として、
調査の成功率につながります。
現場で一番嬉しい瞬間
決定的な証拠が撮れた瞬間。
もちろん嬉しいです。
でも私が一番好きなのは、
調査が終わったあと、
調査員同士で、
「あそこ、いい交代でしたね。」
「助かりました。」
そんな何気ない会話をするときです。
派手ではありません。
でも、
その積み重ねが、
依頼者へお渡しする一冊の報告書になります。
24年間で変わったこと、変わらないこと
通信機器は大きく進化しました。
GPSもあります。
リアルタイムで位置共有もできます。
でも、
一つだけ変わらないものがあります。
最後に調査を成功させるのは、人と人との連携です。
どんなに便利な機材があっても、
息の合ったチームワークは作れません。
それは現場で積み重ねるしかないものです。
編集後記
24年間、たくさんの現場を経験しました。
一人では絶対に撮れなかった証拠が、
仲間の一言で撮れたことが何度もあります。
だから私は、
「自分が調査した」
とはあまり思いません。
「みんなで調査した。」
そう思っています。
探偵という仕事は、
孤独な仕事に見えるかもしれません。
でも現実は、その逆です。
仲間を信じられる人ほど、
いい調査員になる。
24年間、この考えだけは変わりませんでした。
次回予告
現場ノート#015「今日は何もありませんでした。」──この報告が一番伝えにくい。24年間で知った“空振り調査”にしかない価値
「今日は何もありませんでした。」——探偵からそう報告を受けると、がっかりされる方もいます。しかし24年間の現場では、「何もなかった」という一日が、次の調査を成功へ導く重要な情報になることが何度もありました。

執筆者
梅澤 賢樹(うめざわ まさき)
総合探偵社R.A.D 代表|探偵歴24年・年間1,500件超
埼玉県公安委員会 届出 第43230057号
24年間、現場の最前線に立ち続ける現役探偵。この連載は、個人が特定されないよう再構成した「現場の本物」の記録です。
