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2026年7月23日 探偵コラム

社内不倫かセクハラか——「境界線」を探偵が調査で見たケースと、企業が誤らないための5つの視点

梅澤 賢樹|総合探偵社R.A.D 代表・探偵歴24年目

社内不倫かセクハラか——その関係は合意か強要か。探偵歴24年が見た境界線と5つの視点|総合探偵社R.A.D

「二人は不倫関係なのか。それとも、女性社員が断れずに付き合わされているのか。」

企業から相談を受ける社内男女問題の中には、外から見ただけでは判断できない案件があります。仕事帰りに二人で食事をしている。休日にも会っている。同じホテルへ入った——表面だけを見れば、合意のある社内不倫に見えるかもしれません。

しかし、立場の強い上司から繰り返し誘われ、断れば評価や配置に影響するかもしれないと感じていた場合、その関係を単純に「双方合意の恋愛」と決めつけることはできません。

探偵歴24年の中で、私は社内不倫とセクハラの境界線が曖昧になった案件を何度も見てきました。今回は、その中でも印象に残っている一件をご紹介します。

※実例は個人・企業が特定されないよう、年代・時期・業種など一部の要素を改変しています。

「部長と女性社員が不倫しているらしい」

依頼は、埼玉県内に事業所を持つ企業の経営者からでした。対象は50代の男性部長と、同じ部署の30代の女性社員。頻繁に一緒に退勤し、会社近くの飲食店へ入る姿を複数の社員が見ている。休日に二人で歩いていたという話も出ている。社内ではすでに「不倫関係らしい」という噂が広がっていました。

ところが、経営者が女性社員へ事情を聞こうとすると、本人は強く否定しました。「交際していません。」「誘われるので、断り切れずに行っていただけです。」「誰にも言わないでほしいです。」

一方、男性部長は「お互いに好意がある。」「嫌なら来ないはずだ。」「会社とは関係のない私的な付き合いだ。」と説明していました。同じ関係について、二人の認識はまったく異なっていたのです。

会社が恐れていたこと

企業側が最も恐れていたのは、不倫そのものではありませんでした。男性部長には人事評価への影響力があり、女性社員の昇進や配置にも関わる立場でした。仮に女性社員が断れない状況に置かれていたとすれば、単なる社内恋愛として処理することはできません。

しかし、女性社員の申告だけで男性部長を処分すれば「合意だった」という反論が出る可能性もあります。企業としては、先入観を持たず、実際の二人の行動を確認する必要がありました。

調査初日──二人で食事へ

平日の午後7時過ぎ。男性部長が先に会社を出ました。約10分後、女性社員も退勤。二人は会社から少し離れた駅前で合流し、個室のある飲食店へ入りました。

約2時間後、二人は店を出ました。男性部長は女性社員の背中に手を添えます。女性社員は大きく抵抗する様子を見せません。この一場面だけを切り取れば、親密な関係に見えます。

しかし、私たちはそこで結論を出しません。企業調査では、一枚の写真よりも、その前後の行動が重要です。

駅前で距離を取った女性社員

店を出た後、男性部長はタクシー乗り場とは反対方向へ女性社員を誘導しました。女性社員は立ち止まり、スマートフォンを操作しながら何かを伝えています。男性部長は再び女性社員の腕に触れました。女性社員はその手を外し、数歩距離を取りました。

その後、女性社員は一人でタクシーへ乗車。男性部長はその場にしばらく残っていました。二人は食事をしていました。しかし、その後の行動には温度差がありました。

2回目の調査で見えた「待ち伏せ」

別の日。女性社員は定時に会社を出ました。男性部長はすでに退勤していましたが、会社から離れたコンビニ付近に立っていました。女性社員が現れると、男性部長は近づきます。女性社員は一度立ち止まったものの、そのまま駅へ向かいました。男性部長も並んで歩きます。

二人は駅構内まで一緒でしたが、女性社員は改札前で何度も腕時計を確認していました。その日は飲食店へ入らず、女性社員は一人で電車に乗りました。

企業側の説明では、女性社員はこの日「用事があるので食事には行けない」と事前に伝えていたそうです。それでも男性部長は、退勤後の動線上で待っていたことになります。

休日の接触──ホテル街で見えた意思の不一致

3回目の調査は休日でした。女性社員は一人で自宅近くの商業施設へ。午後、男性部長が車で現れ、二人は合流して郊外の飲食店へ向かいます。ここだけ見れば、女性社員も自ら会っているように見えました。

しかし食事後、男性部長が向かったのは駅ではなくホテル街でした。車がホテルの入口付近まで進むと、女性社員は大きく身振りを交えて何かを伝えました。車はホテルへ入らず、そのまま通過。数分後にコンビニの駐車場へ停車し、女性社員は一人で車を降りてタクシーで帰宅しました。男性部長は追いかけませんでした。

この日の行動から、少なくともホテルへの同行について、二人の意思が一致していなかったことがうかがえました。

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社内ヒアリングで判明したこと

調査報告書を受け取った企業は、外部の専門家を交えて社内ヒアリングを実施しました。女性社員の説明はこうでした。数か月にわたり食事へ誘われ、何度か断ったが、仕事上の対応が急に冷たくなった。評価面談では「付き合いも仕事のうちだ」「可愛げがないと損をする」「二人で話したほうが君のためになる」といった趣旨の発言があった。完全に断れば異動や評価に影響するのではないかと怖くなり、「食事だけなら」と応じていた

一方で男性部長は最後まで「女性社員も食事に来ていた」「休日にも会っていた」「自分だけが悪いわけではない」と主張しました。確かに、女性社員は複数回会っていました。しかし、会っていたという事実だけで、すべてに同意していたとは限りません。

社内不倫とセクハラの境界線——現場で確認する5つの視点

① 立場に大きな差があるか

上司と部下、経営者と従業員、評価者と被評価者。断ることで仕事上の不利益を受ける可能性がある関係では、表面的な同意だけで判断できません。

② 誘いを断った後も接触が続いているか

一度断られた後も、待ち伏せのように退勤経路へ現れる。繰り返し連絡する。帰宅を妨げる。このような行動が継続している場合、双方合意の交際とは異なる可能性があります。

③ 身体的な接触への反応

肩や腰へ触れる、腕を掴む、車や店舗へ誘導する——その際、相手が距離を取る、手を外す、一人で帰ろうとするなどの行動があるかを確認します。

④ 行き先について意思が一致しているか

食事には応じていても、ホテルや自宅への同行は拒否するケースがあります。一部の誘いに応じたことをもって、すべてに同意したとは言えません。

⑤ 仕事上の利益・不利益と結びついているか

評価、昇進、配置、契約更新などをほのめかしながら関係を求めていた場合、単なる私的交際とは見方が変わります。

「笑っていた」「食事に来た」は合意の証明にならない

調査報告の場で、企業担当者からよく聞かれる質問があります。「女性も笑っていたのなら、嫌ではなかったのではないですか。」

しかし、職場の上司と一緒にいる場面で、終始険しい表情を見せられる人ばかりではありません。その場をやり過ごすために笑う。機嫌を損ねないように合わせる。早く帰るために一度だけ食事へ行く。そうした行動もあります。

探偵が記録するのは笑顔だけではありません。店へ入る前の様子。退店後の距離。触れられたときの反応。帰宅しようとした際の行動。一連の流れを記録することで、写真一枚では見えない関係性が浮かび上がります。この考え方は「セクハラの証拠がない」実録記事で解説した「継続性という証拠」と同じです。

調査後の企業対応

企業は調査報告書とヒアリング結果をもとに、男性部長を女性社員の評価・指揮命令系統から外しました。その後、社内規程に基づく処分が行われ、管理職研修と相談窓口の見直しも実施されました。女性社員は退職せず、別部署へ異動しました。

企業側が重視したのは「二人が食事をしていたか」ではなく、「男性部長の立場を背景に、女性社員が断りにくい状態が継続していたか」という点でした。

探偵として感じたこと——関係に名前を先につけない

24年間、男女問題や企業調査を担当してきて感じるのは、関係の名前を先につけることの危険性です。「不倫だ」「恋愛だ」「セクハラだ」——最初からどれかに決めてしまうと、自分に都合のよい場面だけを見てしまいます。

二人で食事をしていた。休日にも会った。笑顔で話していた。それらは事実です。しかし、それだけでは二人の関係のすべてを説明できません。重要なのは、会っていた事実ではなく、なぜ断れなかったのか、断った後に何が起きたのか、立場の強い側がどのような行動を続けたのかです。

この案件で、女性社員がヒアリングの最後に話した言葉が印象に残っています。

「私も何度か食事に行ったので、誰にも信じてもらえないと思っていました。」

食事へ行ったこと。笑ったこと。連絡を返したこと。それらを理由に、自分にも責任があると思い込んでいたのです。

社内不倫とセクハラの境界線は、二人で会った回数だけでは決まりません。立場の差、拒否の有無、拒否後の行動、そして継続性。その一つひとつを感情ではなく、客観的な記録として積み上げることが重要です。探偵の役割は関係に名前をつけることではなく、実際に、どこで、誰が、どのような行動をしていたのかを第三者の立場から記録し、企業や専門家が適切な判断をするための材料を残すことです。

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